※本記事ではストーリーの核心に触れるネタバレはしません。しかし、未見で内容を一切知りたくないという方は離脱願います。
今回は、難解映画を量産することで有名なクリストファー・ノーラン監督の最新作「オッペンハイマー」を観る前に知っておいた方がいい知識を簡潔に説明します。
私は多少の知識を入れたうえで臨んだので、初見で完全に理解できなくとも十分楽しむことができました。
知識をまったく入れずに観ると、情報量の多さに圧倒され初見の理解度が50%を切ってしまう可能性があります。
しかし、本記事で紹介する出来事や概念、人物を知った上で観ると理解度が80パーセントくらいにまで上昇するでしょう。
※なお、ネタバレありの感想を述べている記事もありますので、興味ある方は映画鑑賞後にぜひお読みください。
作品情報
第二次世界大戦下、
引用:映画「オッペンハイマー」公式
アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。
これに参加した J・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて
世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。
しかし原爆が実戦で投下されると、
その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。
冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、
オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。
世界の運命を握ったオッペンハイマーの栄光と没落、その生涯とは。
今を生きる私たちに、物語は問いかける。
原題 | Oppenheimer |
ジャンル | ドラマ、伝記 |
監督 | クリストファー・ノーラン |
主演 | キリアン・マーフィ |
上映時間 | 180分 |
製作国 | アメリカ、イギリス |
製作年 | 2023年 |
知っておくべき事前知識
これから説明する事前知識について、厳密にはそれぞれの概念の細かいニュアンスが異なるかもしれません。
しかし、あくまでイメージを湧きやすくするために簡略化したうえで説明している部分がありますのでご了承ください。
みなさんも学生時代の社会科の授業で習っているものが多いかと思いますが、忘れてしまった方もいると思いますので、復習の意味をこめて再度確認してください。
早速いきましょう!
オッペンハイマーについて
引用:【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー(youtube.com)
・1904年4月22日生まれ
・1967年2月18日死去(62歳没)
・ハーバード大学を卒業(飛び級かつ首席で卒業)
・ケンブリッジ大学に留学
・ゲッティンゲン大学へ移籍(博士号を取得)
・カリフォルニア大学と他校の助教授→教授
・マンハッタン計画(後述)のリーダーへ
・原爆開発のリーダーとして尽力したことから「原爆の父」と呼ばれる
・戦後、原爆開発への後悔から水爆開発に反対するようになる
・公職を追放される(オッペンハイマー事件)
・咽頭がんにより死去
※6カ国語を話せるなど語学力にも長けていた。
※運動神経はあまりよくなく、「実験」が苦手だった。このことは作品の序盤で描かれている。
※本作ではオッペンハイマーの若いころから晩年までを描いており、特殊メイクによって老けさせたり若返らせたりしています。
基本的にオッペンハイマーの一人称で描かれる
本作はほとんどオッペンハイマーの一人称で進行していきます。
ノーラン監督もインタビューで「オッペンハイマーの人生を追体験してほしい」みたいなことを言っていました。
なので本作の楽しみ方としては、「オッペンハイマーは人生における重要な局面でどんな意思決定をして、その結果どんな気持ちになっていったのか?」を映画を観ながら考えていくのがいいと思います。
カラーとモノクロ
本作はカラーとモノクロを使い分けています。
これを知らずに観るとたちまち混乱します。
カラーのパートはオッペンハイマーの一人称視点であり、モノクロパートはそれ以外(主に原子力委員会の委員長でもあるルイス・ストローズ視点)だと思って観てください。
用語・概念
理論物理学
物理現象を理論的(数式など用いて説明する)に研究する学問のことです。
あまり深く考えなくていいと思います。
原子爆弾の仕組み
物質を構成している原子の中心に原子核があります。ウランやプルトニウム原子の原子核に中性子をあて、人工的に壊すと、大量のエネルギー(高い熱や人体に危険な放射線)が放出されます。原子核がこわれることを「核分裂」といい、この核分裂がごく短い時間に次々と広がると、瞬間的に非常に強大なエネルギーを生みだします。このエネルギーを兵器として利用したのが原子爆弾(原爆)です。
引用:広島市HP
これを読んでもよくわかんないですよね(笑)
要は「核分裂」というメカニズムを利用したのが原爆です。
核分裂は文章で理解するのではなく、感覚的に把握しておいて下さい。
コチラの動画が感覚的に理解するのに助かります。
水爆(水素爆弾)
原子爆弾が「核分裂」というメカニズムを利用しているのに対して、水爆は「核融合」というメカニズムを利用しています。
難しいことは置いておきますが、原爆よりはるかに放出エネルギーが大きいと言われています。
ユダヤ人
一言で言うと、ユダヤ教を信仰する民族のことです。
でも、「だから何?」って感じですよね。
細かいことは置いておきますが、知っておいてほしいことは、ユダヤ人はナチスに迫害されてきたということです。
オッペンハイマー自身もドイツにルーツを持つユダヤ系アメリカ人です。
ドイツの降伏
1945年5月7日、ドイツはフランスのランスで西側連合国に、そして5月9日にはベルリンでソ連軍に無条件降伏しました。
トリニティ実験
引用:【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー(youtube.com)
1945年7月16日にアメリカで行なわれた世界で最初の核実験。
ドイツが降伏したにもかかわらずトリニティ実験を実行する運びになった過程は観ていて考えさせられます。
本作ではこのシーンの緊張感と迫力が半端ないです。
マンハッタン計画
引用:【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー(youtube.com)
第二次世界大戦中、ナチス・ドイツなどの一部枢軸国(日本・ドイツ・イタリアを中心に、同盟関係をむすんだ国)の原子爆弾開発に焦ったアメリカ、イギリス、カナダは原子爆弾開発・製造のために、優秀な科学者達を結集した計画をたてました。それがマンハッタン計画です。
オッペンハイマーはこのマンハッタン計画のリーダーに選出されます。
共産主義
共産主義
財産を私有ではなく共同体による所有(社会的所有)とすることで貧富の差をなくすことをめざす思想・運動・体制のこと。
引用:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
冷戦
冷戦
国際間における経済・思想・宣伝など、武力によらないはげしい対立抗争。第二次世界大戦後の造語で、米国とソ連の間の対立関係を称したことに始まる語。冷たい戦争。コールドウォー。また、人間関係などで、それに似た状態にもいう。
引用:コトバンク
赤狩り
1940年代後半から50年代前半にかけて冷戦が激化していたこともあり、アメリカ国内で共産主義者を過剰に摘発し公職などの追放を行っていた。それらの運動のことを赤狩りといいます。
しかし、なぜオッペンハイマーが赤狩りの対象になったのか?
シンプルな話で弟・妻・元愛人が共産党員だったからです。
具体的には次に説明する「オッペンハイマー事件」として認識されています。
オッペンハイマー事件
引用:【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー(youtube.com)
オッペンハイマー事件
アメリカの原子爆弾製造に指導的役割を果たし、第二次世界大戦後、原子力委員会の要職を務めた物理学者オッペンハイマーが、1954年、スパイの嫌疑を受けて、国家機密に関与する資格を奪われ公職から追放された事件。
引用:コトバンク
登場人物
重要人物はひとまず数名覚えておけば大丈夫です。
いくらなんでも登場人物が多すぎます。
全員把握しようとすると180分間脳みそのリソースが持続できません。
「あいつもこいつも一体誰だ?」とたちまち混乱します。
初見ですべての人物を把握することはあきらめてください。
そんなことができる人は東大に受かっています。
なので、まずは幹となる重要人物だけを覚えてください。
「幹を覚えてから小枝を覚える」のスタイルでいきましょう。
レスリー・グローブス(演:マット・デイモン)
引用:【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー(youtube.com)
オッペンハイマーをロスアラモス研究所の所長に任命するアメリカ陸軍の将軍。
「マンハッタン計画」の責任者。
ルイス・ストローズ(演:ロバート・ダウニー・Jr.)
引用:【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー(youtube.com)
原子力委員会の委員。プリンストン高等研究所の所長にオッペンハイマーを選ぶ。
後に水爆に対する姿勢からオッペンハイマーと対立することになります。
かなり執念深い性格のように感じました。
アーネスト・ローレンス(演:ジョシュ・ハートネット)
引用:映画「オッペンハイマー」公式
核物理学者であり発明家。
カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授でオッペンハイマーの同僚かつ友人。
背が高くガタイがいい。
序盤から登場場面はかなり多い方です。
トルーマン大統領(演:ゲイリー・オールドマン)
前ルーズベルト大統領の後任。
戦後、オッペンハイマーとホワイトハウスで初対面するが、オッペンハイマーは大統領に対してある言葉を漏らします。
その言葉に対してトルーマンはぶちぎれます。
しかし、私はこのやりとりが非常に印象的なんです。
この会話から考察できることが山ほどあるように感じます。
この会話からあなたは何を思うでしょうか?
アルベルト・アインシュタイン(演:トム・コンティ)
引用:【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー(youtube.com)
「ナチスドイツよりも先に原爆開発をやるべきだ!」とルーズベルト大統領へ手紙を出した人物。
相対性理論の著者で知られる。
ドイツ生まれのユダヤ人であるが、ナチスが政権を獲得した後、迫害から逃れるためにドイツを出ることになった。
弟・愛人・妻
引用:【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー(youtube.com)
いずれも元共産党員。(画像は妻)
まとめ
いかがだったでしょうか?
以上説明したことを把握していれば理解度が50%を切ることを防げます。
しかし、会話のテンポも早いのでついていくのは簡単ではありません。
鑑賞日当日はなるだけ体力のあるうちに鑑賞することをおすすめします。
脳が活発に動く午前中の方が好ましいかもしれません。
個人的に原作まで読む必要はないと思っており、読むなら映画を観たあとでいいと思います。
今日もご愛読いただきありがとうございました。
コメント