今回はアメリカンニューシネマとして知られる映画「タクシードライバー」を紹介します。
本作は時代背景など予習しておくと10倍楽しめます。
これから観ようとしている方はぜひ本記事を読んでから臨んでみてください。
また、1度観たけどよく分からなかった人は本記事を読んでから再度鑑賞してみてください。
タクシードライバーを観る「タクシードライバー」について
引用:映画.com
あらすじ
ベトナム戦争から帰還し、不眠症に悩まされている26歳の青年トラヴィスは、タクシードライバーの職に就く。
(「26歳の若さでタクシーの運転手…?他の選択肢はなかったのか?」と思うかも)
友人もおらず孤独にドライバーの仕事をしつつもニューヨークの夜の街に対し日頃から苛立ちを感じていた。
客を乗せては客が残していった汚物の処理に追われ、休日はひたすらポルノ映画を観たり、ずっと電車に乗っていたりして空虚な毎日を送っている。
そんな中、大統領候補の選挙事務所に勤める女性ベッツィーとデートをすることになったが、デートとしてポルノ映画館に連れて行ってしまい、あえなくフラれる。
(初デートでポルノ映画館に連れていくのは少し感覚がズレていることが分かる。)
この出来事から彼の狂気は加速し、怒りはおかしな方向へと向かっていく。
作品情報
原題 | Taxi Driver |
ジャンル | クライム |
監督 | マーティン・スコセッシ |
主演 | ロバート・デ・二―ロ |
製作年 | 1976年 |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 114分 |
登場人物
引用:ソニー・ピクチャーズ公式
※画像右:トラヴィス、中央:アイリス
トラヴィス
26歳の孤独な青年。ベトナム戦争の帰還兵(※作中ではベトナム戦争について言及されていない)不眠症であることもありタクシードライバーの職に就く。
ベッツィー
大統領候補であるパランタイン上院議員の選挙事務所に勤める女性。トラヴィスとデートをするが、トラヴィスにポルノ映画館に連れていかれ怒って帰ってしまう。
アイリス
12歳の若さで少女娼婦をしている。ふとしたきっかけでトラヴィスと出会い、トラヴィスに目をつけられることになる。ちなみに演じているのは当時13歳のジョディ・フォスター。
パランタイン上院議員
次期大統領候補であり、ベッツィーが所属する選挙事務所が応援している政治家
とりあえずこの4人くらい覚えておけば大丈夫です。
ちなみに監督マーティン・スコセッシもタクシー乗客として出演します。
どんな映画なの?
引用:ソニー・ピクチャーズ公式
狂気に満ちた青年トラヴィスが毎日毎日孤独にタクシードライバ―をしながらフラストレーションを溜めていき、好きな女性にもあっけなく振られて、ついに狂気が爆発!ここからついに犯罪に手を染めていきます。
とまあこんな感じの作品です。
最後のアメリカンニューシネマと言われる作品です。
詳しくは以下の記事をご参照ください。
アメリカンニューシネマとは簡単に言うと、1960年代後半から1970年代中盤にかけて流行ったムーブメントのことです。
定義も特にありません。
従来までの「勧善懲悪」「夢のような恋物語」とは違って、社会や政治への反体制的な作品が多いのが特徴。
もしかしたら本作は一般大衆にウケる作品ではないかもしれません。
また、小学生などの小さな子供が観ても楽しめる可能性は低いかもしれません。
タクシードライバーを観る筆者の率直な感想(雑感)
めちゃめちゃ面白いです!筆者はこれまで3回観ました。
まだ観ていない人は優先的に観た方がいいです。
初めて観たのは10年くらい前(その時は筆者は学生)ですがその時は何が面白いのかよく分かりませんでした。
とりあえず「トラヴィスはヤバイ奴だな!」くらいの感想しか持ちませんでした。
ですが、本作は社会人になってからの方が心に響くと思います。
引用:ワーナー・ブラザーズ公式
2回目に観たのは映画「ジョーカー(2019年)」が公開されたとき。
「ジョーカー」は「タクシードライバー」が下敷きになっていると言われています。
ちなみに「タクシードライバー」の主演ロバート・デ・ニーロも「ジョーカー」に出演しています。
そして3回目はミニシアター「早稲田松竹」で上映されると聞いて「ぜひスクリーンで観たい」との想いから早稲田松竹に足を運びました。
タクシードライバーが主人公ってなんか地味じゃない?
語弊を恐れずに言うとタクシードライバーって「孤独な職業」だと思います。
みなさんタクシーの運転手に何を求めていますか?
運転手との楽しいひとときを求めていますか?
ぶっちゃけ、タクシーに対しては「目的地まで移動することだけ」を求めていますよね。
それ以上でもそれ以下でもないと思います。
むしろ運転手が話しかけてきたら面倒くさいとすら思う人もいるかもしれません。
そう考えるならばタクシードライバーって設定自体が「孤独のメタファー」だと思いませんか?
まさにトラヴィスです。
それに加えてトラヴィスには友人もいないし、職場でもどこか同僚と馴染めていない。
そんな孤独な若者が自分の人生に意義を見出すためにどんな行動に走っていくのか。
事前に抑えておきたい知識
ベトナム戦争
引用:ソニー・ピクチャーズ公式
本作ではベトナム戦争について一切言及されていません。しかし、物語冒頭タクシードライバーの就職面接を受けるシーンの会話からトラヴィスがベトナム戦争の帰還兵であることが推測できます。
このベトナム戦争は途轍もなく悲惨は戦争だったそうです。民間人も多数亡くなっています。
あまりの悲惨さにアメリカ人もドン引きして反戦運動も起こったそうです(戦場の実態がテレビで放映されたそうです)。
ベトナム戦争に出兵した後、アメリカに帰国してもヒーロー扱いなどされずにむしろ肩の狭い想いをしたそうです。
PTSD
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態です。PTSDは決して珍しいものではなく、精神医療においては「ありふれた」病気のひとつであると言えます。
生死に関わる体験をすると、多くの人には不安、不眠、動悸などの症状が生じますが、多くの場合は一過性です。またフラッシュバックのような症状が生じたとしても、数ヶ月のうちに落ち着く人が少なくありません。しかし時間が経っても楽にならなかったり、かえってますます辛くなることもあります。また、数ヶ月から数年間経ってから、PTSD症状がはっきりとしてくる場合もあります。
引用「こころの情報サイト」PTSDとは
トラヴィスがPTSDであるとは作中で述べられていませんが、トラヴィスが不眠症であることからPTSDの影響かもしれないことが推測できます。
作品の見所
トラヴィスの心情が比較的読み取りやすい
トラヴィスは日記を書いています。
その日記をナレーションとして読んでいるので、トラヴィスの心の内をはっきりと聞くことができます。
そのため、トラヴィスの心の動きを追いやすい仕様になっています。
ロバート・デ・二―ロの狂気の演技
引用:ソニー・ピクチャーズ公式
一言で雑に言うと社会不適合者です。
その有様は実に不適合者そのもので多くの人が共感できるかもしれません。
実社会で生きる人みんなが社会不適合者ではないでしょうけど、どんな人でも少なからず孤独感を感じているもの。
みなさんも1人で部屋にいると同じような言動をしているのかもしれません。
デ・二―ロはトラヴィス役を演じ切るために数週間にわたって実際にタクシードライバーをやったそうです。
その成果が十分に出ているのではないかと思います。
ジョディ・フォスターの大人びた演技
「羊たちの沈黙」で有名なジョディ・フォスターの演技は当時13歳だったとは思えません。
声の出し方、目線の配り方、娼婦らしい(?)笑み、大物女優達顔負けの演技でした。
バーナード・ハーマンの曲
気怠い感じの曲調が印象的です。
筆者は作業用BGMとしてよく聴いています。
当時のニューヨークの乾いた空気間を表現しているのでしょうか?
この音楽が聴きたくて何度も本作を観ている人も多いことでしょう。
観る前に考えておいてほしいこと
みなさん他人を見下したことありますか?
「あの人は自分よりカースト的に低そうだ」
「あの人より自分はマシだ」
等と思ったことはありませんか?
本作の主人公トラヴィスはこのような感情を持っているんです。
作中のセリフで以下のようなものがあります。
「夜の街は、娼婦、ごろつき、ゲイ、麻薬売人で溢れている。吐き気がする。奴らを根こそぎ洗い流す雨はいつ降るんだ?」
引用:映画「タクシードライバー」
みなさんこのセリフを聞いてどう思いますか?
もちろん現代でこんなことを言うとシンプルに炎上します。
このセリフからどこか他人を見下していることが分かりますよね。
自分はこいつらよりマシだと言わんばかりの発言です。
でもこのような思考に陥っている人は実際多いのではないでしょうか?
「あいつは悪だ、自分は正義だ」と無意識に思ってはいないでしょうか?
私はよくX(旧Twitter)で映画に関することを発信していますが、他人のポストに対して暴言を吐いている人をよく見かけます。
いわゆる「クソリプ」です。
クソリプをする人の目的は様々かと思います。
バズっているインフルエンサーに暴言を吐くことで単に目立ちたいだけの人もいるでしょう。
また、インフルエンサーの発言内容が気に食わなくて苦言を呈している人もいるでしょう。
気持ちはよく分かりますが、「自分は正しい、あいつはどうかしている」という少しトラヴィスの思考に近いものを感じるときがあります。
また、SNSで気に入らないアカウントがあればみんなの前で晒して吊るし上げ、みんなで叩き散らかす。
X(旧Twitter)をやっている人であれば見たことある光景かもしれません。
自分を「正義の側にいる人間」だと信じて、「悪」だと決めつけた人間を徹底的に攻撃する。
SNSに限った話ではなく、こんなことは現実でも起きているでしょう。
本作においてトラヴィスの「正義と悪」の認知は明らかに歪んでいます。
その思考から狂気に満ちた行動へと進んでいきます。
もしかすると「正義と悪」を明確に線引きするその思考法こそが人間を狂気へと駆り立てるのかもしれません。
結論、何が言いたいのか?
世の中には「筆者も含め」トラヴィスに近い人間が現実世界に数多く存在するかもしれないということ。
本作を「自分もトラヴィスに近い感覚をもっているかもしれない」という認識をもって鑑賞すると実りある時間になるかもしれません。
まとめ
いかがだったでしょうか?
孤独に苛まれている人もそうでない人もきっと共感できるはずです。
そして、自分の生き方や考え方を内省するきっかけとなるでしょう。
ネタバレありの考察記事も書いておりますので、作品を観たあとに以下の記事もご覧ください。
今日もご愛読いただきありがとうございました。
タクシードライバーを観る
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